6月14日その3 

ゴシック出窓

*聖モジツ教会
 モジツ教会の司祭シンドレルさんは高名なパイプオルガン演奏者でもありオロモウツ歴史の生字引的存在でもある。4時の約束がほとんど一時間も遅れて到着したがシンドレルさんは快く出迎えて下さった。
 彼は演奏の前にオロモウツの見所を説明し,歴史を語り,そしてパイプ・オルガンについて細かく説明した。モジツ教会のオルガンはいまはポーランド領土になっているシレジア地方にあったメーカーが手がけた作品で,200年も経過しているのに修理したのはただの一回だった。その時には彼の指導のもとに電子式自動演奏ができるように大がかりな機能を追加し,手動演奏も二カ所でできるように鍵盤を追加したりした。モジツ教会の立派な大パイプオルガンはその大きさでヨーロッパで三番目であるが,名演奏家シンドレルさんとともによく知られている。

氏は「オロモウツの音楽」という本も著している。市庁舎の天文時計に備わっているオルゴールは地元の民族音楽三曲奏でるが,それを編曲したのが彼であった。地元の民族音楽とは,オロモウツ県のハナー地域で育まれた伝統音楽のことで,チェコ一番の絢爛豪華なハナー衣装で大勢の男女が舞踏する様はダイナミックである。氏もこのハナーの伝統文化をサポートされている。
氏は熱弁を続けられた。オロモウツのことにはなんでも興味のある私にはたいへん楽しい語らいであったがゴシック建築のオルガン演奏の二階は寒かった。それで女性たちはトイレに行きたくなって席を立つものが続出した。申し訳ないけれど演奏に入って欲しいと告げた。

ご高齢だが元気いっぱいな司教がパイプオルガンを演奏するときの背中には後光が射して,ステンドグラスの神秘的な絵画に溶け込まれているようだった。文化教養で等級をつけるのはよくないかも知れないがシンドレルさんはオロモウツ第一の教養人だろうと私は尊敬している。パイプオルガンの響きは一階できくのがよいからみな階段をおりて祈りを捧げる長椅子にすわった。教会堂すみずみまで響き渡る重厚で尊厳の響くオルガンの音に酔っていた。パイプオルガンの生演奏に感激された我が日本の女性方だがキリスト教については少し、音楽についてもよくご存じで,さすがに日本の女性方は教養がたかいと今になって分かったのだった。
http://4travel.jp/traveler/fk/album/10083925/

 市電でホテルに戻った。

*シグマホテル
 シグマホテルではレストランにみな様集まりさっそく夕食となった。肉フォンドュと野菜サラダ,それにビールだった。フォンドュでは牛肉,豚肉,鶏肉をアソートで注文した。私のお勧めメニューであったが,ご婦人方には人気がもう一つなかったようで,肉片を油につける料理であるが美味しいという声はだれからもなかった。だが地元のビールメーカーであるリトヴェル・ビールはだれもが美味しいと絶賛した。ふだんビールを飲まれない方もそれではと自然に誘われてホップがきいて生の味が美味いチェコビールに満足されていた。このリトヴェル・レストランはホテルの経営者とリトヴェルのビールメーカーが共同出資しているからか、美味しいリトヴェル・ビールがじつに安い。スーパーマーケットには最上質のビールは売られていないが、このレストランでは最高にうまいビールでも驚くほど安い。
チェコには数え切れないほどビールメーカーがあり、滞在するところの地ビールをいただくのは楽しみである。

 もう少し腹がさびしいと言うときに試食するのにちょうど良いパラチンキと呼ばれる軽食があるのでそれを食してみた。パラチンキは店によってまったく異なるデザートのようなもので,このリトヴェル・レストランのそれはフラッペのうえにたくさんアイスクリームがのっている。ビールを心地よく喉に通したおかげだろうか,きぶんが大らかになった女性たちは,「パラチンキ」か「パラチンカ」のどちらが正しいのかなんて質問を通訳のヤロさんに尋ねていた。「パラチンキ」は一皿でありつまりは単数のときの呼び名なのですとヤロさんはたじたじしながら応えていた。