世界文化遺産というもの

この35メートルの文化遺産は日本人にとって簡単に値打ちや意味がわかる代物でない。世界中には目の覚めるような美しい遺産、巨大な遺構、大自然などたくさんあるから、すでにそれらを見学された方にとり、これが世界文化遺産なのかとむしろいぶかしがる日本人は多い。でも少しだけといえどもその歴史の特徴を学ぶことができたので、もう一度「聖三位一体」の柱を正面外見から見学した。


簡素な造りの日本に残る神社やお城を美しいと鑑賞する美意識からすると、金襴豪華で出っ張りがなにやら意味を成している柱頭の一体物や下半分には石像がほぼ左右均等に配置されている柱の全体をながめて、ずいぶんと物々しいあまり格好のよくない物体があるという感じにも見えてしまうかもしれない。


柱頭に座っているのがいわゆるオロモウツの「聖三位一体」で、左手を天にかざす父なる神、右手に十字架をもつイエス・キリスト、真ん中にシンボルである鳩がとまって光を天に放つ精霊が一体となって神を表す。
その下に剣をたずさえて天国を守る大天使ミハル(又はミカエル)が座っている。彼の下方向は地上であり、真下にちょうどマリアが二人の天使に助けられて天国に昇天する場面が目に入ってくる。一見すると、上方にいる大天使がマリア様を引っ張り上げているように思えるが、そうではなくて、天国と地上を自由に飛ぶことのできる天使がマリア様を天に導いている。そこまでの石像は金箔が貼られて金色に輝いている。


キリスト教のいう地上を見るが、正面の礼拝堂入口の手前には、左右に二人の天使が松明トーチをかかえている。夜は明かりをともして信者を迎えてくれたのだろう。
礼拝堂入口の半円アーチの上には文字が刻んである。宗主国オーストリア皇帝と后が列席あそばしてこの記念碑を神様に奉納いたします、という内容。
その上の円形縁のなかに浮彫りされた人物はイエスの12使徒のなかでも一番弟子であった聖人ペトロ(ペトゥル)。ローマで布教活動を行っていたペトロは時の暴君ネロに捕まり十字架に架けられたが,神様であるイエス・キリストとおなじ姿ではおそれ多いと自ら頭をしたに逆さに架けられたのだった。
なお、礼拝堂の分厚い壁外側には12使徒みなの浮彫りが施されている。


 もう一度礼拝堂の入口をながめる。石像がそれぞれの柱の上に立っているが、一段目の右側には若きヴァーツラフの像。彼は殉死して「ボヘミアを守る聖人」としてチェコを見守り、困難が現れると馬にまたがり国の困難に立ち向かうと言い伝えられている。彼の名を冠したヴァーツラフ大教会はオロモウツの観光スポットの一つとなっている。
 一段目の左方向には、聖人モジツが立っている。モジツはアフリカ生まれのローマの軍人だったが後にオーストリアを守る聖人として列聖した。彼の名を冠した聖モジツ教会もオロモウツの観光名所で、とくに国際パイプオルガンの音楽祭で知られている。


二段目の左右にみられるのが、チェコキリスト教を伝えた二人の聖人で、「モラビアを守る聖人」ツィリルとメトディウス。そして三段目左右の聖人は、聖母マリアの両親である。



そのほかにもたくさんの聖人像がたっている。イエスの育ての父、洗礼を制度化したバプディスト、市庁舎の礼拝堂を守る聖人、私物をすべて貧しい人に与えたスペイン生まれの聖人、懺悔の秘密を守って殺された聖人二人、イタリア生まれの消防の聖人、などが立っている。